Audacityでテンポとピッチを独立して変更する方法

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主目的: Audacityで音声トラックのテンポとピッチを個別に調整する方法を学ぶ 関連バリアント: テンポ変更、ピッチ変更、速度変換、BPM調整、半音変更、RPM変換
目次
- テンポの変更
- ピッチの変更
- 両方を同時に変更する場合(速度変換/RPM)
- ベストプラクティスと注意点
- 失敗しやすいケース
- 代替アプローチ
- 具体的手順(ミニ・メソッド)
- 役割別チェックリスト
- 受け入れ基準
- ファクトボックス
- まとめ
テンポの変更
テンポを変えると曲の長さ(再生時間)を保ったまま「速さ」だけを変えられます。ボイスや楽器の音色(ピッチ)はそのままにできます。Audacityでは次のメニューを使います: 「効果 > Change Tempo… (Effect > Change Tempo…)」。
手順の要点:
- 編集したいトラック全体、または編集範囲を選択します。
- 効果メニューから Change Tempo を選びます。
- 変化率(%)を入力するか、元のBPMと目標BPMを入力します。
- または「目標の長さに合わせる」オプションでトラックを特定の時間に収められます。
実務上のヒント:
- マルチトラックプロジェクトでは、テンポ変更したトラックが他とずれるため、配置(タイムライン)を再調整する必要があります。
- ボーカルをインストゥルメンタルに合わせるためにわずかに伸ばす(テンポを落とす)ことがよくあります。
ピッチの変更
ピッチ(音の高さ)を変える場合、再生速度そのものは変えずに、音程だけを上下できます。Audacityでは「効果 > Change Pitch… (Effect > Change Pitch…)」を使います。
主なオプション:
- %で変更
- 周波数(Hz)で変更
- 半音(semitones)で変更(最も直感的)
- 元のキーと目標のキーを音名(A, B, Cなど)で指定
実務上の使い方:
- ギターや弦楽器のソロのキーを変えて、別チューニングで演奏しやすくするときに有効です。
- ボーカルを数半音上げ下げしてハーモニーを作成する際、自然さを保つために小さい変化から試します。
両方を同時に変更する(速度の変更)
テンポとピッチの両方を同時に変えるには「効果 > Change Speed… (Effect > Change Speed…)」を使います。これは物理的には再生速度を変えるのと同じで、アナログレコードの回転数(RPM)変換の再現などに便利です。
用途例:
- 33 1/3 RPM と 45 RPM の変換
- 昔の78 RPMレコードを別の速度で再生したいとき
- 昔の録音の「雰囲気」を変える効果を狙うとき
重要: テンポだけを変える場合と異なり、Change Speed はトラックの長さも変えます。
ベストプラクティスと注意点
Important: 小さな変更から始める
- テンポ・ピッチともに大きく変えると、音質劣化(アーチファクト)が目立ちます。経験則として±25%や数半音以上の変更は注意。
- ボーカルは特にアーチファクトが出やすい。楽器によっては大きな変更に強い場合があります。
質の良いソースを使う
- 高ビット深度・高サンプリングレートのオーディオは処理耐性が高く、変換時の副作用が少なくなります。
非破壊のワークフロー
- オリジナルトラックは必ず保存し、別トラックやエクスポートで比較を取りながら作業する。
ノイズやリバーブに注意
- ノイズが多い素材は変換で不自然に伸びたり縮んだりすることがあります。事前にノイズ除去やEQで整えておくと良い結果になります。
失敗しやすいケース(いつ効かないか/反例)
- 大幅なピッチシフト(±6半音以上)でボーカルに「ロボット」や「チップマンク」的な人工音が出る。
- 短い効果音やトランジェント(スネア、パーカッション)を大きく伸ばすとクリックや破綻が出る。
- サンプルがモノラルだが処理後に位相ズレが発生しステレオでおかしくなる場合がある。
- 極端に低いまたは高い周波数(サブベースや超高域)の素材は変換で目立つ歪みが出る。
代替アプローチ
- リアルタイムプラグイン(DAWのTime Stretchアルゴリズム): より滑らかなストレッチを行う高品質アルゴリズムを備えたプラグインがある。
- ピッチ補正ツール(Auto-Tune、Melodyneなど): ボーカルの微調整や音程修正は専用ツールの方が自然。
- ハードウェア: DJのピッチフェーダーや古いターンテーブルのRPM切替で物理的に速度を変える方法。
ミニ・メソッド: 具体的な手順(ステップバイステップ)
- プロジェクトを保存してバックアップコピーを作る。
- 編集するセクションを選択(範囲選択ツール)。
- 効果 > Change Tempo… でテンポを微調整(±5〜10%から試す)。プレビューで確認。
- 効果 > Change Pitch… で必要なら半音単位でピッチ調整。プレビューで違和感をチェック。
- 両方を変える場合は Change Speed… を試して、トラック長と音質を確認。
- 比較のために元トラックとエクスポート版を聴き比べる。
- 問題がある箇所はイテレーション(少し戻して再調整)。
役割別チェックリスト
ミュージシャン:
- 原曲のキーを把握したか
- 半音での変更をまず試したか
- 楽器演奏時に合わせて再録音可能か検討したか
ポッドキャスター/編集者:
- 会話の速度だけ変えてナチュラルさを保てたか
- 長さを指定する場合、他トラックと整合性をとったか
サウンドデザイナー:
- 速度変換で意図的な効果(レトロ感、異世界感)を得られたか
- アーチファクトを効果として利用するか否かを決めたか
受け入れ基準(Критерии приёмки)
- 目標テンポ/BPMにトラックが合っている
- ピッチ変更後、主要メロディーが正しく聴こえる
- 目立つアーチファクトがない、または許容範囲内である
- マルチトラックでタイミングが合っている
ファクトボックス(キーとなる数値・目安)
- 小さなテンポ調整: ±1〜10% 推奨
- 注意が必要な大きな調整: ±25% 以上
- 半音の目安: 1半音 ≈ ブルースやポップのキー調整に有効
- レコードRPM: 33 1/3、45、78(Change Speedでの変換対象)
テストケース / 受け入れテスト例
- ケースA: ボーカルを+2半音に変更し、自然さが保たれるか(合格基準: 歌詞が判別でき、声質が不自然でない)。
- ケースB: 楽器トラックを-10%テンポで伸ばし、他のトラックと同期できるか(合格基準: 目視と耳で同期が取れる)。
- ケースC: 33 1/3→45 RPM変換で全体のキーが上がるが楽曲として成立するか(合格基準: 主要旋律が崩れない)。
ローカル向けの注意点(日本の現場でよくある落とし穴)
- カラオケや伴奏ファイルは元ファイルがすでに圧縮されている場合が多く、変換で劣化しやすい。
- レコードのRPM表記はジャケットに記載されているので、物理媒体からデジタル化した素材は必ず確認する。
まとめ
- Audacityの「Change Tempo」「Change Pitch」「Change Speed」はそれぞれ用途が異なる。必要に応じて使い分けること。
- まずは小さな調整を行い、プレビューで確認しながら作業すること。
- 高品質ソースと非破壊ワークフローを維持するとリスクを下げられる。
注意: 大きな変更は音質に影響するため、専用ツールやプラグインを検討すること。
重要: この記事の手順はAudacityの一般的なワークフローに基づく説明です。UIのローカライズやバージョン差によりメニュー名が異なる場合がありますが、メニューの効果内容(テンポのみ、ピッチのみ、速度=両方)は同じ概念です。