絵文字でWhatsAppをクラッシュさせる脆弱性とその対策

重要用語の定義
- PoC: 攻撃の実証動画や検証コード。実際に脆弱性が再現できる証拠を指します。
- バッファオーバーフロー: データが想定サイズを超えて領域を上書きし、動作不良やクラッシュを引き起こす状態。
概要
独立した研究者が報告した問題では、相手に約4000個近い絵文字だけを送信すると、受信側のWhatsAppがメッセージを開いた際にクラッシュする現象が発生します。影響はWhatsApp Webと一部のAndroid版WhatsAppに確認されています。
この手法は特殊なバイナリや暗号化文字列を必要とせず、単純に大量の絵文字を連続で送るだけで再現できます。過去に同研究者が指摘したテキスト文字数制限の脆弱性と類似した根本原因が疑われますが、絵文字用の制限が適切に実装されていなかった点が問題です。
影響範囲
- 対象アプリ: WhatsApp Web(Chrome、Opera、Firefoxで確認)
- 対象端末: Androidの複数機種で再現報告(Marshmallow、Lollipop、KitKatなど)
- 影響ユーザー数: 報告では最大で数億〜10億に達する可能性があると述べられていますが、正確な数は未確定です
事実ボックス
- 送信する絵文字数の目安: 約4000個
- ブラウザで遅くなり始める目安: 約4200〜4400個の絵文字入力で描画が遅延すると報告
- 再現確認環境: 複数のAndroidバージョンと主要ブラウザ
技術的な説明
WhatsAppはメッセージを受信した際に内部でレンダリングやバッファ処理を行います。絵文字は単一文字とは限らず、合成された複数コードポイントを含むことがあります。大量の絵文字を連続で受け取ると、アプリやブラウザ側の文字数・バッファ制限が想定外の入力で溢れ、描画処理やメモリ管理に失敗してクラッシュすることがあります。
研究者の観察では、WhatsApp Webは一見して最大文字数を許容するように見えるが、絵文字列が内部バッファを溢れさせるとクラッシュに至るケースがあるとされています。
再現手順(概要)
- 攻撃者は対象ユーザーへ約4000個の絵文字を含むメッセージを送信する。
- 受信者がWhatsAppでその会話を開く。
- アプリやブラウザのレンダリング処理が遅延またはクラッシュする。
実証動画(PoC)
受信者向けの即時対策
重要: この手順は被害を最小化するための実務的な対応です。完全な解決は公式のパッチ適用を待つ必要があります。
- メッセージを開く前に送信者を長押しして会話を削除する(プレビューで全文が見えないように注意)。
- 通知プレビューをオフにする。設定でメッセージプレビューの表示を無効にすれば、通知から直接クラッシュが誘発されるリスクを下げられます。
- 不審な送信者はブロックするか、連絡先から削除する。
- 定期的にアプリを最新バージョンに更新する。開発元がパッチを出したら速やかに適用してください。
手順例 受信時の安全な会話削除
- WhatsAppを開く前に通知バーで相手の会話を長押ししてアプリを終了するか、通知を消す。
- WhatsAppを開く際は該当の会話を選ばず、設定メニューからチャットを削除する。
- 必要ならばバックアップを利用して必要な履歴以外を復元しないよう注意する。削除した会話の復元はバックアップ状況によっては不可能です。
送信者・管理者向けの対策
- 公式に報告する: 脆弱性を見つけた場合はWhatsAppの公式チャネルを通じて報告する。
- 組織管理者はグループ設定や外部からのメッセージ制御を検討する。特にエンドユーザーが単独で不明な外部送信を受ける環境では、メッセージ制限や承認ワークフローを導入することが有効です。
開発者向けメモ
想定対応一覧
- 絵文字や合成コードポイントを含む入力に対する明確な長さ制限を実装する。
- 受信時にストリーム処理でサイズチェックを行い、閾値超過時は安全に破棄または分割する。
- 描画ライブラリの例外ハンドリングを強化する。レンダリング失敗がアプリ全体のプロセス終了に繋がらないようにする。
いつこの手法が効かないか
- サーバー側で受信メッセージに長さや内容のフィルタリングが有効になっている場合。
- クライアントが既に絵文字数の制限や安全なストリーミング対策を実装している場合。
- 受信側のプラットフォームがプレビュー表示を完全にブロックしている場合は、ユーザーが手動で会話を開かない限り影響が出にくいです。
役割別チェックリスト
エンドユーザー
- 通知プレビューを無効化する
- 不審な送信者をブロックする
- 公式アップデートを適用する
IT管理者
- 受信メッセージのフィルタリング方針を検討する
- ユーザー教育を行い、不審なメッセージに注意する
アプリ開発者
- 入力長とバッファ処理を再検査する
- 例外処理とテストケースを拡充する
代替アプローチと注意点
- 回避としては、サードパーティのメッセージクライアントに切り替える方法もあるが、互換性や公式サポートの有無に注意が必要です。
- グループチャットで起きた場合、複数ユーザーが影響を受ける可能性があるため、速やかに管理者が問題のメッセージを削除し、参加者に注意喚起してください。
まとめ
この脆弱性は単純に見える一方で、広範囲に影響を与える可能性があります。受信した際の即時対応としては会話削除と通知プレビューの無効化が実用的です。根本的な解決はWhatsApp側のパッチ適用を待ってユーザーが最新版へ更新することです。
重要
- 不審な大量絵文字メッセージを受け取ったら安易に開かないでください。
- 大切なチャット履歴を消さずに保全したい場合は、バックアップの取り扱いに注意してください。
参考リンク
最後に一言
この種の問題はプロトコルや表示処理の仮定が崩れたときに発生します。ユーザーは落ち着いて対処し、開発者は入力検証と例外処理を優先してください。