TL;DR
Fedora のアップグレードは「preupgrade」か公式 DVD(ISO)を使うのが確実です。クリーンインストールが最も安全ですが、現在の設定やパッケージを維持したい場合は事前バックアップを取り、sudo yum install preupgrade → sudo preupgrade の流れか、ISO からアップグレードを実行してください。
重要: 重大なデータ損失を避けるため、必ずバックアップを作成してからアップグレードを開始してください。

Fedora は頻繁に新機能や改良をリリースします(例:GNOME の大規模更新や GRUB 2、Btrfs など)。本記事は公式のアップグレード手順を分かりやすくまとめ、現場で使えるチェックリスト、リスク対策、検証手順を提供します。
この記事の狙いと想定読者
- 主にデスクトップユーザーとシステム管理者を対象にしています。
- 既存の Fedora インストールを新しいリリースへ安全に移行する手順、選択肢の比較、失敗時の対処法を示します。
役立つ前提情報
Linux コミュニティでは、一般に「クリーンインストール(新規インストール)」が推奨されます。理由は次の通りです。
- 古いパッケージや設定ファイル、不要なゴミが残らないためシステムがクリーンになる。
- ディストリビューションや環境によってはアップグレード経路がうまく動作しないことがある。
ただし、既に使い込んだ環境をそのまま維持したい場合や、インストール済みソフトと設定を保持したい場合はアップグレードが実用的です。筆者の経験では、Fedora は比較的アップグレードに強く、直接新しいリリースへジャンプ(例:F13 → F15)できる柔軟性があります。Ubuntu などはリリース間を逐次アップグレードすることが多く、長期サイクルのリリースでは手順がやや複雑になることがあります。
定期リリースの周期はおおよそ 6 ヶ月程度である点を理解しておくと、リリース間移行の計画が立てやすくなります。
アップグレード方法の全体像
Fedora をアップグレードする主な現実的な方法は次の 2 つです。
- preupgrade ユーティリティを使う(ネットワーク経由で必要なパッケージのみ取得)
- DVD(ISO)からアップグレードする(インストールメディアを作成して実行)
他にも手動でリポジトリを切り替えて yum / dnf で段階的に更新する方法など実験的なやり方がありますが、成功率や手間を考えると上の 2 種が確実です。
preupgrade を使う手順
preupgrade の長所と短所
- 長所: ネットワークから必要なパッケージだけを取得するためダウンロード量が抑えられる。リポジトリ設定を自動で新しいリリースに切り替える。
- 短所: 一部の状況では DVD ベースの手順より堅牢性が劣るとの報告がある(経験上、多くは問題なく動作します)。
実行手順
- 現行システムを最新に更新し、重要データをバックアップする。推奨: 完全バックアップ(外部ストレージ)と設定ファイルのエクスポート。
- preupgrade をインストールします。
sudo yum install preupgrade- preupgrade を実行します。
sudo preupgrade- ウィザードが起動し、アップグレード先のリリースを選択できます。アルファ/ベータ/rawhide を含めるかどうかのチェックボックスが表示されます。安定性を重視するならチェックを外してください。
- ダウンロードと同定が終わると再起動が促され、ダウンロード済みインストーラで起動してアップグレード処理が実行されます。処理終了後に再起動すると新しいリリースで起動します。
注意点と検証
- ロールバックの用意がない場合、アップグレード前に必ずブート可能なリカバリメディアやバックアップを作成してください。
- ネイティブのサードパーティリポジトリ(RPM Fusion など)は自動で切り替わらないことがあるため、アップグレード後に手動で確認してください。
DVD(ISO)を使う手順
DVD(またはブータブル USB)から行う方法は、インストールメディアによりシステムを起動してアップグレードを選ぶ流れです。
- 公式サイトから目的のリリースの DVD ISO をダウンロードします。
- ISO を DVD に焼くか、容量のある USB スティックへ書き込みます(例:
ddや Rufus、Fedora Media Writer を使用)。 - メディアから起動し、インストーラを起動します。
- インストーラが既存の Fedora を検出し、アップグレードのオプションを提示します。アップグレードを選んで処理を続けます。
DVD ベースの方法はローカルメディアだけで済むため、ネットワークが不安定な環境や厳密なバージョン管理をしたい場合に有利です。
実験的・上級者向けの選択肢
リポジトリを手動で切り替え dnf system-upgrade(新しい Fedora では dnf system-upgrade が推奨されることがあります)を使う方法、またはコンテナや仮想環境での段階的移行など、上級者向けの手法も存在します。これらは状況に応じて検討してください。
受け入れ基準
アップグレード成功の受け入れ基準(最低ライン):
- システムが正常にブートする。
- 主要サービス(GUI、ネットワーク、SSH など)が動作する。
- ユーザーデータとホームディレクトリが完全に保たれている。
- 主要なアプリケーションが実行可能で、破損した依存関係がない。
検査項目に不備があれば、ロールバックまたはバックアップから復旧してください。
役割別チェックリスト
デスクトップユーザー:
- 全データのバックアップ
- 現行パッケージの一覧を保存(
rpm -qa > packages.txt) - 拡張リポジトリの確認と対応
システム管理者:
- サーバーのサービス停止手順を用意
- スナップショット(LVM/ZFS/Btrfs)やイメージバックアップを取得
- アップグレード後の監視とログ確認手順
リスクと緩和策
| リスク | 影響 | 緩和策 |
|---|---|---|
| 依存関係の衝突 | サービス停止 | バックアップ、テスト環境で事前検証 |
| ブート不能 | サービス完全停止 | ブート可能なリカバリメディア、GRUB 修復手順 |
| サードパーティパッケージ非互換 | アプリ動作不良 | リポジトリ確認、代替パッケージの検討 |
アップグレード後の検証テスト(簡易)
- ブート時間およびログの確認 (
journalctl -b) - 主要サービスの起動確認
- ユーザーデータ整合性チェック
- デスクトップ環境の基本操作確認
テストケースの例
- インプレースアップグレード実施 → ブート成功
- ネットワーク切断時に preupgrade を中断 → 再試行が可能か
- サードパーティリポジトリがある状態でアップグレード → パッケージ破損の有無
決定フローチャート
下のシンプルなフローチャートは、どの方法を選ぶべきかの判断に使えます。
flowchart TD
A[アップグレードするか?] -->|いいえ| B[現状維持]
A -->|はい| C[完全バックアップを取る]
C --> D{ネットワーク安定しているか}
D -->|はい| E[preupgrade を使用]
D -->|いいえ| F[ISO をダウンロードして DVD/USB で実行]
E --> G[アップグレード実行]
F --> G
G --> H{問題発生?}
H -->|いいえ| I[完了]
H -->|はい| J[リカバリ/バックアップから復元]短い実務手順(SOP)
- 重要データの完全バックアップ
- システムの現状パッケージリストを保存
- アップグレード方法を選択(preupgrade / ISO)
- アップグレードを実行
- ポストチェック(ブート、サービス、ログ)
- 必要に応じて追加のパッケージ修正
互換性と移行のヒント
- NVMe や新しいハードウェアを使う場合、カーネルやドライバの互換性に注意してください。
- サードパーティのクローズドドライバ(NVIDIA など)は、アップグレード後に再インストールやモジュールの再ビルドが必要になることがあります。
- Btrfs や LVM のスナップショット機能を使える場合は、アップグレード前にスナップショットを作ると安全です。
1 行用語集
- preupgrade: Fedora のインプレースアップグレード用ユーティリティ
- ISO: インストールメディアのイメージファイル
- GRUB: ブートローダ
- Btrfs: 最新機能を備えたファイルシステム
よくある失敗例と対処
- ダウンロード中に電源断: 再起動してインストールを再実行
- サードパーティパッケージの非互換: 既存リポジトリを確認し、必要なら削除または更新
- ブート不能: リカバリメディアで chroot して GRUB を再インストール
セキュリティ注意点
- アップグレード後はセキュリティ設定(ファイアウォール、SELinux)を確認すること。
- 古い設定ファイルを引き継ぐ場合、不要なサービスが有効になっていないかチェックしてください。
ローカライズと地域の注意点
- 日本語環境を使っている場合、ロケールやフォントの再設定が必要になることがあります。
- 時刻設定(タイムゾーン)やロケール周りは、アップグレード後に
timedatectl、localectlで確認しましょう。
結論と推奨
- 安全性と安定性を最優先するならクリーンインストールを検討してください。
- 既存の設定やアプリを維持したい場合は、事前バックアップを厳密に取り、
preupgradeまたは ISO ベースの手順を選択してください。 - 重大なサーバーやミッションクリティカルな用途では、まずテスト環境でリハーサルを実施してから本番で実施することを強く推奨します。
最後に: あなたの環境ではどの方法が最適でしたか?コメントで運用経験を共有してください。
要点まとめ:
- preupgrade と ISO のどちらかを選ぶ。
- 必ずバックアップと検証を行う。
- サードパーティリポジトリとドライバの互換性に注意する。