コンデンサをマルチメーターでテストする方法を知っておくことは、電子工作や回路修理を行う人にとって必須のスキルです。回路の故障診断や部品交換の判断に役立ちます。静電容量を直接測れるマルチメーターなら最も簡単に測定できます。静電容量測定ができない機種でも、抵抗の時間変化(RC時定数)を観察することで機能チェックが可能です。
準備と安全注意
重要: コンデンサは回路から外してテストするのが最も確実です。大きな電解コンデンサは高電圧を保持する場合があります。必ず以下を守ってください。
- 回路の電源を切る。電源プラグを抜く。バッテリを外す。短絡防止。
- 放電する。適切な抵抗(例: 10 kΩ 1 W以上)を用いてリード間を数秒から数十秒かけて放電する。
- 放電後もマルチメーターで電圧が0V付近であることを確認する。
- 電解コンデンサは極性がある。極性を逆につなぐと破損や破裂の原因になる。
用意するもの:
- マルチメーター(静電容量測定機能があると便利)
- テストリード
- 放電用の抵抗と絶縁手袋(必要に応じて)
- 必要ならLCRメーターやESRメーター(代替手段)
用語(1行定義):
- 静電容量: コンデンサが蓄えられる電荷の量、単位はファラド(F)。
- ESR: 等価直列抵抗。劣化したコンデンサはESRが増える。
RC時定数の基礎
RC時定数(τ)は、抵抗Rと静電容量Cの積です。充電時にコンデンサの電圧が入力電圧の約63%に達する時間がτです。
式: τ = R × C
実務上の直感: ある抵抗で充電/放電させたとき、電圧の立ち上がり/立ち下がりのスピードから容量の「速さ」を見当つけられます。マルチメーターの静電容量測定は内部で同様の振る舞いを利用して値を算出します。
マルチメーターで静電容量を測る手順
静電容量測定モードがあるマルチメーターを使うと、指定された手順で容量値を直接読み取れます。以下は一般的な手順です。
- コンデンサを回路から取り外し、安全に放電する。
- 黒のテストリードをCOM端子に挿す。
- 赤のテストリードをVΩmAまたはμA端子に挿す(表示は機種で異なる)。
- マルチメーターの電源を入れる。
- ダイヤルを静電容量測定位置に合わせる。多くの機種では「-|(-」のような記号で示される。
- コンデンサの極性を確認する。電解コンデンサは長いリードが正極(+)であることが多い。
- 黒のリードをコンデンサの負極に接続する。
- 赤のリードをコンデンサの正極に接続する。
- 表示される値を読む。指定値(部品表やケーシングの表示)と比較する。
補足:
- 測定値が許容誤差(例: ±10%や±20%)内であれば問題ありません。許容誤差はコンデンサの仕様に依存します。
- 大きな容量のコンデンサは内部充電に時間がかかるため、数秒から十数秒待って表示が安定するのを待ってください。
- 表示が非常に小さい(ゼロに近い)か、開放(OL)が出る場合は断線や接触不良の可能性があります。
マルチメーターで抵抗(充電挙動)を使ってチェックする手順
静電容量測定機能がないマルチメーターでも、抵抗レンジを使ってコンデンサの充電による抵抗変化を観察できます。正しく増加するならばコンデンサは充電できています。
- コンデンサを回路から外して放電する。
- 黒のテストリードをCOM端子に挿す。
- 赤のテストリードをVΩmA端子に挿す。
- マルチメーターの電源を入れ、ダイヤルを抵抗(Ω)レンジに合わせる。
- 赤のリードをコンデンサの正極に、黒のリードを負極につなぐ。
- 抵抗値の表示を観察する。初めは低抵抗から始まり、時間とともに抵抗が増え続けるなら正常に充電しています。
判断の目安:
- 抵抗がすぐに非常に低い値に留まる(短絡のように振る舞う)場合は故障(内部短絡)のおそれ。
- 抵抗が極めて高く(無限大に近い)最初から変化しない場合は開放(断線)や接触不良か、極端に大きな容量で測定条件が不適合な場合があります。
- 抵抗が時間とともに増加していくことが確認できれば、少なくともコンデンサが充放電できる状態であると判断できます。だがESRなどの劣化は検出できません。
代替手段といつそれらを使うか
- ESRメーター: 電源回路や高リップル環境での電解コンデンサ劣化(ESR増加)を検出するのに有効。見た目や静電容量は正常でもESRが高いと動作不良を起こす。
- LCRメーター: インダクタンス(L)、静電容量(C)、抵抗(R)を精密に測定できる。製品評価や基板設計時に便利。
- オシロスコープとプローブ: 回路内での波形確認や充放電曲線の可視化に使える。RC時定数の詳細な解析に役立つ。
いつ使うか:
- 電源周りで不安定な動作があるならESRメーター。
- 部品評価や精密測定が必要ならLCRメーター。
- 実運用中の問題の再現や波形解析ではオシロスコープ。
よくある故障パターンと対処(トラブルシューティング)
- 「膨れている/液漏れがある」: 明らかに故障。交換。
- 「静電容量が規格の半分以下」: 劣化または製品誤ラベル。交換を検討。
- 「ESRが高い(ただしマルチメーターでは測定不可)」: 電源回路での不安定原因。ESR測定器で確認。
- 「測定値がばらつく」: 接触不良、リードの汚れ、あるいは内部損傷。リードや端子を清掃し再測定。
役割別チェックリスト
趣味の電子工作者:
- 回路の電源を切る。放電する。
- コンデンサを外す。静電容量モードで測定。
- 値が概ね合えば戻す。疑わしければ交換。
修理技術者:
- 回路全体の安全確認(キャパシタバンク含む)。
- ESRと静電容量を測定。波形確認が必要ならオシロ導入。
- 劣化があれば同等以上の規格で交換(温度、耐圧、低ESR品を検討)。
QA/製造担当:
- ロット毎の抜き取りでLCRメーターを使った確認。
- 保管条件(温度・湿度)や寿命試験の結果を記録。
- 受入基準を定め、不良率を管理。
シンプルなSOP(プレイブック)
- 装置の電源を切り、バッテリを外す。
- 放電用抵抗でコンデンサを確実に放電する。
- コンデンサを基板から取り外す(必要に応じて写真で極性確認)。
- マルチメーターの静電容量レンジで測定。静電容量モードが無ければ抵抗レンジで充電挙動を観察する。
- 測定値を部品仕様と照合する。
- 合格なら再実装。異常なら交換し、交換後に回路動作を確認する。
受入基準
- 静電容量測定で公称値の許容範囲内(部品の定格公差に依存)。
- 抵抗(充電挙動)で抵抗値が時間とともに一方向に増加する挙動を示す。
- 外観に損傷、膨張、液漏れがない。
- 高信頼性用途ではESRの規格値以内であることを確認する。
精密測定のヒューリスティック(簡単な判断モデル)
- 見た目で判りやすく破損している → 即交換。
- 静電容量が公称値の70%未満 → 劣化の疑い。交換を推奨。
- 静電容量は合格でも電源回路が不安定 → ESR測定を行う。
事例(うまくいかないとき)
ケース: マルチメーターで静電容量が規格内だが回路がノイズを発生する。 対処: ESRを測定。ESRが高ければ交換。マルチメーターはESRを見ないため判断ミスが起きる。
ケース: 抵抗レンジで測っても抵抗が変化しない。 対処: コンデンサが回路にまだ接続されている可能性、または極性が逆になっている可能性がある。取り外して再測定。
事実ボックス(要点)
- RC時定数τは63%の到達時間。τ = R × C。
- コンデンサは放電後でも電荷を保持することがある。必ず放電を行う。
- マルチメーターはESRを測れない。高ESRは動作不良の原因になる。
1行用語集
- 静電容量: 電荷を蓄える能力(F)。
- ESR: コンデンサ内部の等価直列抵抗。劣化で増える。
- 極性コンデンサ: 電解コンデンサなど、向きがある部品。
まとめ
マルチメーターはコンデンサの基本的な状態確認に非常に便利です。静電容量測定ができれば公称値との比較で健全性を判断できます。静電容量測定ができない場合でも、抵抗レンジで充電挙動(抵抗が時間とともに増加すること)を確認することで機能確認が可能です。ただし、ESRや内部リークなど、より微妙な劣化はESRメーターやLCRメーターでの測定が必要になります。常に安全第一で作業し、放電と極性確認を怠らないでください。
重要: 測定は必ず安全に行い、疑わしい部品は交換するのが最も確実な対策です。