概要
DBANは、ブート可能なライブイメージから起動してディスク全体を上書きするツールです。商用のBlanccoチームが作成した経緯があり、シンプルで高速に動作する点が利点です。なお無保証のフリーソフトウェアであり、使用には自己責任が伴います。
用語定義(1行):
- DBAN: ブート可能なデータ消去ツール。
- DoD 5220.22-M: 米国国防総省のデータ上書き手順の名称(DBANで採用される既定手法の1つ)。
- Gutmann法: 多数の上書きパターンを用いる高度な上書き方式。
- PRNG: 疑似乱数生成器を使った一回上書き法。
重要: 実行前に必ず消去対象のドライブを確認し、バックアップが不要であることを確かめてください。
起動と基本操作
- 公式サイトからISOイメージをダウンロードし、CDまたはUSBに書き込みます。ブート順序を変更して、メディアから起動してください。
- ブート後、対話型で開始するには「Enterキー」を押します。次に消去対象のディスク・パーティションを選びます。
- 複数のエントリがある場合は「J」「K」で上下移動し、「Spacebar」で選択/解除します。
- 選択が済んだら「F10」で消去を開始します。
重要: ブート後の操作を誤ると誤ったディスクを消去します。表示されるディスク名(容量・デバイス名)を必ず確認してください。
DBANのデータ消去メソッド
メニューで「F3」を押すとコマンド一覧が表示され、任意の消去方法を選んで「F1」で続行できます。以下は主な手法の概要と適合用途です。
DoD 5220
- 概要: ディスク上のアドレス可能領域を複数回(ソース例では7回)上書きして復元を困難にします。
- 適合: 一般的な運用での高い安全性を求める場合。
- 備考: 政府機関由来の手法に由来するため、実務でも広く採用されています。
OPS-II
- 概要: 0/1で複数回書き込みを行い、最後に乱数を書き込む等の組み合わせで逆解析を困難にします。
- 適合: 中〜高レベルのセキュリティを狙う場合。
Gutmann
- 概要: 27回のランダム順パスと8回のランダムデータパスなど、ソースの説明に基づく多数の上書きパス(合計35パス)を行います。
- 適合: 極めて慎重な消去が必要なケース。ただし時間が長くかかります。
PRNG
- 概要: 疑似乱数により1回で上書きします(ワンパス)。
- 適合: 家庭や小規模オフィスで短時間に安全性を確保したい場合。
Quick
- 概要: ディスク全体をゼロで埋める単純な1パス方式。
- 適合: 低リスクの用途や短時間で処理したい場合。最も速く、最も安全性が低い。
受注メモ: 各方式の効果は媒体(HDD/SSD)や製造方法、経年劣化などにより変わります。
セキュリティ上の考慮点
- 理論的限界: 研究者は、先端機器(磁気力顕微鏡など)を用いると過去のビット状態を推定できる可能性を指摘しています。情報理論的には絶対的な『消失』は難しいとする見解もあります。
- SSDなどフラッシュ媒体: SSDはウェアレベリングや内部のリザーブ領域があるため、単純な上書きが完全ではないことがあります。機器ベンダーのSecure Eraseコマンドや暗号化済みドライブの暗号鍵破棄(crypto-erase)を検討してください。
- 物理破壊の併用: 超機密データでは上書きに加えて物理破壊(シュレッダー、粉砕、溶融など)を行うのが最も確実です。
重要: DBANは主に磁気ディスク向けに設計されています。SSDや仮想ディスク、暗号化済みボリュームでは期待する効果が得られない場合があります。
いつDBANだけでは不十分か(反例)
- SSD: ウェアレベリングとオーバープロビジョニングにより、特定の物理ブロックが上書きされない可能性があります。
- 暗号化されていないが特殊なRAIDアレイ: コントローラによるキャッシュやスパニングで消去対象が分散するケース。
- 法執行や法的証拠保全が絡む場合: 専門業者や法的基準に従った手順が必要になることがあります。
代替手法: ベンダーのSecure Erase、ATA/SEDの暗号鍵破棄、専門業者による偽造防止処理(フォレンジック対策含む)。
実務向けチェックリスト(役割別)
IT管理者
- 消去対象を資産管理簿で確認する。
- バックアップの有無を再確認する。
- ブートメディアを準備し、テストでブート確認する。
- 消去後、ログや完了スクリーンを保存する(スクリーンショット、写真)。
一般ユーザー
- 消去前に必要なデータは必ずバックアップする。
- 自分のPCかどうかを再確認する。
- 不明点があればIT窓口に相談する。
ハードウェア再販業者
- 企業規程に従った消去証明(スクリーンショット、消去方式の記録)を保管する。
- 高リスクデータは物理破壊も検討する。
実行手順(SOP)
- 重要データのバックアップと資産ラベルの確認。
- DBAN ISOをダウンロードして検証(ハッシュがある場合は整合性確認)。
- ブート用USB/CDを作成する。別のマシンで起動テストを行う。
- 対象機でDBANをブートし、消去対象ドライブを選ぶ。
- 消去方式を選択(用途に応じてDoD/Gutmann/PRNG等)。
- 実行後、成功画面の記録を取得し、必要なら物理破壊を併用する。
- 資産管理簿を更新し、消去証明を保管する。
ロールバック: データ消去は不可逆の操作です。ロールバックは存在しません。実行前のバックアップが唯一の戻し手段です。
受入基準
- 指定したディスクが正しく選択され、選んだ消去方式で完了メッセージが表示されていること。
- 消去対象の機密度に応じて、必要な証拠(スクリーンショット、ログ、証明書)が取得されていること。
- SSDなど特殊媒体の場合はベンダー推奨の消去方法を併用していること。
テストケース / 受け入れ条件
- 正常系: ドライブを選択してDoD方式で消去し、完了メッセージが出る。
- 異常系: 誤って別ディスクを選ばないよう、複数の目視確認を要求するチェックを実施する。
- 境界条件: 大容量ドライブや複数パーティションのある環境で処理時間や中断再開の振る舞いを確認する。
意思決定フローチャート
flowchart TD
A[消去すべきデータか?] -->|いいえ| B[消去不要]
A -->|はい| C[媒体はSSDかHDD?]
C -->|HDD| D[DBANでDoDまたはGutmann]
C -->|SSD| E[ベンダーのSecure Eraseまたは暗号鍵破棄]
D --> F{データの機密度}
F -->|高| G[DBAN + 物理破壊]
F -->|中| H[DBAN PRNGまたはDoD]
F -->|低| I[DBAN Quick]
E --> J[消去後に証明を保存]
G --> J
H --> J
I --> J
代替ツールと注意点
- ベンダー純正ツール(例: Secure Erase): SSDなどの内部機能を利用するため、より確実な消去が期待できる。
- 商用データ消去サービス(フォレンジック対応可): 証明書発行や法的要件に対応できる点が強み。
- 暗号化の事前導入: 運用面では、新規導入時からディスク全体暗号化を行い、退役時には鍵破棄で対応する手法が最も管理しやすい。
FAQ
Q: DBANはSSDで安全に使えますか?
A: 一般的にはSSDのウェアレベリングや隠し領域のため、DBAN単体では完全とは言えません。ベンダーのSecure Eraseや暗号鍵破棄を優先してください。
Q: 消去後にデータ復元は本当に不可能ですか?
A: 高度な解析機器を使えば過去のビット状態を推定できる可能性が指摘されています。DBANは多くのケースで十分ですが、絶対はありません。
Q: どの方式を選べばよいですか?
A: 機密度が高いならGutmannや複数方式の併用、運用上速さを重視するならPRNGやQuickを選びます。媒体の種類も考慮してください。
まとめ
- DBANはシンプルで早く、HDDのデータ消去に有用です。
- SSDや特殊構成では効果が限定されるため、ベンダー手順や物理破壊を検討してください。
- 実行前の確認と消去後の証拠保存を必ず行い、運用ポリシーに沿って実施してください。
短い告知文(社内向け):
- DBANを用いたディスク消去作業を実施します。対象・日時・消去方式は資産管理簿に記載の通りです。消去前にバックアップが必要なデータは必ず保存してください。
重要: 本記事は操作手順と考慮点を示すものであり、法的助言やベンダー保証を代替するものではありません。