何を検出するか(用語定義)
- スロットリング: ISPやキャリアが意図的に速度を制限すること。
- 減衰(degradation): ネットワーク品質の低下。必ずしも意図的とは限らない。
なぜ検出が必要か
ISPやキャリアは「無制限」プランや広告を掲げますが、多くの契約には「フェアユース」や帯域管理の記述が含まれます。消費者が自分の回線品質を把握できないと、不当な制限や品質劣化に気づきにくくなります。定期的な測定は交渉や苦情提出、監督機関への報告の証拠になります。
Internet Health Test(Battle for the Net)
Internet Health Testは、Measurement Lab(M-Lab)のインフラを使う診断ツールです。目的は接続に目立つ性能劣化や経路の偏りを検出することです。ユーザーインターフェイスはわかりやすく、テストはブラウザで開始できます。
重要: 地理的なサーバ割り当ては地域によって異なります。国外からアクセスすると最寄りサーバが実際の位置とずれる場合がありますが、結果の一貫性(繰り返し測定での差分)を見る点では有用です。
使い方(簡潔)
- ブラウザで Internet Health Test のページにアクセスする。
- テスト開始をクリックしてポップアップを許可する。
- 表示される複数のテストを順に実行する。
- 結果を保存またはスクリーンショットで記録する(比較用)。
Ookla の Speedtest
携帯回線の「無制限」プランが本当に無制限か調べるのに有効なのが、Speedtest by Ookla のアプリです。端末ごとにアプリを入れて、請求周期の初めと、データを大量に消費した後の同じ条件で測定します。
推奨テスト手順(モバイル向け、実践版)
- iOS/Android/Windows Phone 用の Speedtest アプリをダウンロードする。
- 請求周期の開始直後に複数の地点(自宅、職場、外出先)で測定してベースラインを作る。
- 以後、期間中に一定量のデータ(例: 5GB)を消費する。通信事業者が提示する『実効上の制限値』に合わせると比較が容易になる。
- 同じ場所・同じ時間帯・同じテストサーバーで再度複数回測定する。
- 初期値との差を比較する。顕著な低下(例: 平均ダウンロード速度が50%以上低下)はスロットリングの可能性があるが、後述の誤検知要因を確認する。
追加ツールと参考
- M-Lab のツール群(Glassnost など)
- MobiPerf(モバイルカバレッジとアプリ別の通信挙動を計測)
- キャリア提供の速度表示や公式アナウンス
ミニ方法論: 再現可能な検出フロー
- 基準データを取る(請求周期の最初に最低3回、異なる時間帯で計測)。
- 中間観測を定期的に行う(週1回など)。
- 大量消費後に再テストし、変化量を定量化する(中央値と標準偏差で把握)。
- 外的要因(天候、電波状況、ピーク時間帯、端末のバックグラウンド更新)を排除して比較する。条件を揃えた比較が必須です。
検出の限界と誤検知の原因
- ネットワーク混雑(ピーク時間)や無線の電波状況変化は自然な速度低下を引き起こします。
- サーバ側の負荷や経路変更も速度に影響します。
- モバイルでは基地局側の負荷、電波干渉、端末のモデム設定も誤検知原因になります。
したがって、異常として報告する前に「同じ条件での再現性」を確認してください。単発の低下はスロットリングの証拠にはなりません。
代替アプローチと補助手段
- パケットキャプチャ(高度): TCPリトランスミッションやパケットドロップを解析すると、意図的なキューイングやリセットの痕跡が見える場合があります(技術者向け)。
- VPN 経由での比較: VPNを使って経路が変わると速度が改善する場合、ISPの経路制御や特定サービスへの差別が疑われます。ただしVPN自体のオーバーヘッドに注意。
- トレースルートと経路解析: ルーティングの変化を追うことで、どの経路がボトルネックかを推定できます。
役割別チェックリスト
- 消費者(一般ユーザー)
- SpeedtestやInternet Health Testを請求周期ごとに記録する。
- キャリアの利用規約(フェアユース条項)を確認する。
- 異常時はスクリーンショットと日時を保存する。
- テクニカル担当者(システム管理者)
- パケットキャプチャ、M-Labデータを収集して長期傾向を分析する。
- VPNを用いた比較テストを実行する。
- 規制担当者・消費者保護団体
- 公開データを収集して傾向を監視する。
- 事業者に再現手順を要求できるよう、記録の標準化を推奨する。
テストケース例(受け入れ基準)
- 条件: 同じ端末、同じ場所、同じ時間帯、同じサーバー
- 合格(正常): 再テストで平均ダウンロード速度が初期値から±20%以内
- 要調査: 20–50%の劣化(外的要因をチェック)
- 異常(報告対象): 50%以上の一貫した低下、あるいは特定サービスのみ著しく遅くなる場合
注意点
重要: 個別の測定だけで「意図的なスロットリング」を断定しないでください。複数の独立した測定と条件の揃った再現性が必要です。
まとめ
- 定期的な測定でベースラインを作ることが最も重要です。
- Internet Health Test と Ookla Speedtest は消費者が使いやすい代表的なツールです。
- 誤検知を避けるため、条件を揃えた繰り返しテストと補助的な手法(VPN、パケット解析)を併用してください。
要点:
- 条件を固定して繰り返し測定する。
- 異常が再現できれば記録を保存し、事業者に問い合わせる。
- 規制当局に報告するには、再現性のある証拠が必要です。
1行用語集
- スロットリング — ISPやキャリアによる意図的な速度制限。
短い告知文(社内共有向け、100–200字) 携帯キャリアやISPの速度制限を疑う場合は、Internet Health Test や Ookla Speedtest を用い、請求周期の開始時と大量データ消費後に同一条件で再テストしてください。再現性のある低下を確認できたら、日時と結果を保存し事業者や消費者保護機関へ報告します。