Ubuntu 10.10 MaverickでPhotoshop CS5をWineで動かす手順

何が必要か
- Ubuntu 10.10 Maverickを実行しているPC
- Windowsを実行できるマシン(実機でもVirtualBox上の仮想マシンでも可)
- Photoshop CS5のインストーラ(体験版でも可)
概要(1行定義)
Photoshop CS5をUbuntu上でネイティブにインストールする代わりに、Windowsで導入した実ファイルとレジストリ設定をWine環境へ移行して実行する手法です。
Windows側の準備
- Windows上でPhotoshop CS5を通常どおりインストールしてください。
- インストール完了後、スタートメニューの検索に「regedit」と入力してレジストリエディタを開きます。
- HKEY_LOCAL_MACHINE → Software → Adobe を右クリックして「エクスポート」を選択し、ファイル名を adobe.reg として保存します。
保存した adobe.reg と以下に示すPhotoshopのインストールフォルダをUbuntu側にコピーする準備をします。
Ubuntu(Maverick)側の準備
まずWine本体とMicrosoftのTrueTypeフォントをインストールします。ターミナルで次を実行してください:
sudo apt-get install wine ttf-mscorefonts-installer
winecfg
winecfg を初回実行すると $HOME/.wine フォルダが作成され、Wineの基本設定画面が出ます。
次に winetricks を使って必要なランタイムとコンポーネントを追加します:
wget http://www.kegel.com/wine/winetricks
sh winetricks msxml6 gdiplus gecko vcrun2005sp1 vcrun2008 msxml3 atmlib
これで多くのランタイム依存関係と、Photoshopのテキスト機能で重要な atmlib がインストールされます。
Windowsからコピーするファイルと配置先
インストーラがUbuntu上で動かない場合、Windowsでインストールされた実ファイルを直接コピーします。以下の一覧どおりにコピーしてください。
Windows側からコピーするフォルダ/ファイル | → | Ubuntuの配置先(Wineのドライブ) |
C:\Program Files\Adobe\ | -> | $HOME/.wine/drive_c/Program Files/Adobe |
C:\Program Files\Common Files\Adobe | -> | $HOME/.wine/drive_c/Program Files/Common Files/Adobe |
C:\Documents and Settings\$USER\Application Data\Adobe | -> | $HOME/.wine/drive_c/users/$USER/Application Data/Adobe |
C:\windows\system32\odbcint.dll | -> | $HOME/.wine/drive_c/windows/system32/odbcint.dll |
コピー方法はネットワーク共有、USB、もしくは仮想マシンの共有フォルダなど任意の方法で行ってください。
レジストリのインポート
Windowsでエクスポートした adobe.reg を Ubuntu のホームディレクトリに置き、次のコマンドでWineのレジストリに取り込みます:
wine regedit adobe.reg
これにより、WindowsでのAdobe関連のレジストリ設定がWine側に反映されます。
Photoshopの起動
ファイルとレジストリの取り込みが終わったら、次のパスに移動して Photoshop.exe をWineで開きます:
$HOME/.wine/drive_c/Program Files/Adobe/Adobe Photoshop CS5
ファイルマネージャ上で Photoshop.exe を右クリックし「Wine Windows Program Loaderで開く」(Open with Wine Windows Program Loader)を選択します。
通常はここでPhotoshop CS5が起動します。必要ならアプリケーションメニューにショートカットを追加してください。
よくある問題と対処(トラブルシューティング)
重要: atmlib.dll を追加していないとテキストツールがクラッシュすることがあります。上記の winetricks コマンドで atmlib を入れてください。
起動しない/クラッシュする
- Wineのバージョンを確認してください。報告例では wine 1.2.1 で動作が確認されていますが、別バージョンでは動作が保証されません。
- Adobe フォルダや Common Files、Application Data の配置先が間違っていないか確認してください(大文字小文字やスペースにも注意)。
- 必要なDLL(atmlib.dll や odbcint.dll)が正しい場所にあるか確認してください。
テキスト表示がおかしい/ツールで落ちる
- atmlib.dll が必須です。winetricks で追加するか、Windows環境から対応DLLをコピーしてください。
ファイルが開けない/プラグインが動作しない
- 一部のネイティブプラグインはWine上で動作しないことがあります。プラグインを無効にして再現するか、代替プラグインの導入を検討してください。
代替アプローチとオプション
- PhotoShop CS5 Portable を試す:非公式のポータブル版はWineでインストーラが動く場合があります。ただし非公式である点に注意し、配布元やライセンスに関するリスクは自己責任です。
- ネイティブ代替ソフト:日常利用で重いと感じる場合は GIMP、Krita などのオープンソースソフトを検討してください。
- 仮想マシン上でWindowsを動かす:VirtualBox/VMware上にWindowsを入れてそのままPhotoshopを使う方法は最も互換性が高いです(パフォーマンスとライセンスに注意)。
注記: ポータブル版の入手先についてはここでは案内しません。必要であれば検索エンジンで確認してください。
実務向けチェックリスト(ロール別)
Windowsホスト担当者:
- Photoshop CS5 をインストールする
- HKEY_LOCAL_MACHINE → Software → Adobe を adobe.reg としてエクスポートする
- 必要なDLLと Photoshop フォルダ群をアーカイブして提供する
Ubuntu担当者:
- wine と ttf-mscorefonts-installer を導入する
- winetricks で msxml6, gdiplus, gecko, vcrun2005sp1, vcrun2008, msxml3, atmlib を追加する
- Windowsから提供されたフォルダを $HOME/.wine/drive_c に配置する
- wine regedit で adobe.reg をインポートする
- Photoshop.exe を Wine で起動して動作確認する
リスクマトリクス(定性的)
- 互換性リスク(中): Wineのバージョン差やPhotoshopのサブバージョンで動作が変わる可能性あり。検証環境を固定すること。
- ライセンス/配布リスク(高): 非公式のポータブル版や不正な配布物を使用すると法的リスクにつながる。必ず正規ライセンスを確認する。
- データ破損リスク(低〜中): Wine環境下で稀にファイル破損が発生する可能性があるため、重要ファイルはバックアップを取ること。
移行後の受入基準(簡潔)
- Photoshop CS5 が起動し、主要なツール(ブラシ、レイヤー、テキスト)が利用できること。
- 代表的な PSD を読み込み、レンダリングが著しく崩れないこと。
- テキスト機能がクラッシュしないこと(atmlib の導入を要確認)。
用語集(1行定義)
- Wine: WindowsアプリをUNIX系OS上で動かす互換レイヤー。
- winetricks: Wineに必要なランタイムやDLLを簡単に追加するスクリプト集。
- atmlib.dll: Adobe製のテキスト処理に関連するDLL。テキスト機能の安定化に重要。
まとめ
この手順は、Ubuntu 10.10 Maverick上でPhotoshop CS5のインストールが失敗する場合に有効な回避策です。Windowsでのインストール済みファイルとレジストリをWine側へ移行し、必要なランタイム(特に atmlib)を追加することで、多くの機能が利用可能になります。環境によって動作が異なるため、必ずバックアップと事前検証を行ってください。
重要: WineやPhotoshopのバージョン差によっては上記手順で動作しないことがあります。テスト環境で十分に検証してから本番導入してください。