Do Not Track(追跡防止)は、ブラウザが訪問先サイトに「追跡してほしくない」と伝える仕組みです。ブラウザごとに有効化方法が異なり、第三者が必ず守る義務はないため完全な防御にはなりません。実用的には、DNTの有効化に加えてトラッカー遮断拡張やプライバシー重視の設定を組み合わせることを推奨します。
Do Not Trackとは
Do Not Track(以降 DNT)は、あなたのブラウザがウェブサイトや第三者サービスに「トラッキングを希望しない」という意思表示を送るための技術です。電話の「迷惑電話防止登録」のように、ユーザー側からの単一の選択で追跡の拒否を示します。
定義(1行): ブラウザがHTTPヘッダやブラウザフラグを通じて「追跡しないでください」と通知する仕組み。
重要な点:
重要: DNTは「意向の通知」であり、技術的に追跡を必ず止める仕組みではありません。第三者が従うかどうかは法律やポリシー、当該事業者の判断に依存します。
DNTが注目された背景
MicrosoftがInternet Explorer 10でDNTをデフォルトでオンにした際、大きな話題になりました(後にその挙動は変更されました)。多くのユーザーは「ブラウザが自動的に追跡拒否を送る意味」を誤解していました。DNTはユーザーの意向を示す信号であって、必ずしも追跡を止める機能ではない点が混乱の原因です。
ブラウザ別の有効化方法
各ブラウザでの手順を短く分かりやすくまとめます。手順はバージョンや翻訳で表示が異なる場合があります。
Internet Explorer(IE 9 / IE 10)
- Internet Explorerを起動し、ウィンドウ右上の「設定」ボタンをクリックします。
「セーフティ(Safety)」メニューを開き、「トラッキング防止(Tracking Protection)」を選択します。
新しいウィンドウが表示されます。左のパネルで「Tracking Protection」を選び、右側の「Your Personalized list(あなた専用リスト)」を選択して、画面右下の「有効化(Enable)」ボタンを押します。
有効化できれば、IE内でのDNT信号が送信されます。
Firefox
- Firefoxを起動してオプション(設定)メニューを開きます。
- 「プライバシー」タブに切り替え、「Webサイトに自分を追跡しないでほしいと伝える(Tell Websites I do not want to be tracked)」というチェックボックスをオンにします。
チェックを入れるだけで完了です。
Google Chrome
かつては組み込みのDNTオプションがありませんでしたが、拡張機能で対応していました。現在のChromeでは設定から送信が可能です。
手順(最新版の目安):
- アドレスバーに chrome://chrome/settings/ を入力して設定を開きます。
- 「詳細設定」へ進みます。
- プライバシーの項目で「閲覧トラフィックに『Do Not Track』リクエストを送信する(Send a ‘Do Not Track’ request with your browsing traffic)」を有効にします。
チェックを入れれば、DNTヘッダが送信されます。
Opera
- Operaを起動し、設定メニューから「Preferences(環境設定)」を開きます。
- 「詳細(Advanced)」タブに切り替え、左パネルの「セキュリティ(Security)」を選びます。
- 右側で「サイトに私を追跡しないよう依頼する(Ask websites not to track me)」のチェックボックスをオンにします。
これでOperaからDNT信号が送られます。
DNTの限界と「効かない」ケース
DNTは万能ではありません。主な限界は以下のとおりです。
- 任意性: 多くの第三者トラッカーは、DNTに従う義務がありません。企業ポリシーや法的規制がない場合、無視される可能性があります。
- 技術的制約: DNTは“意向の通知”であり、トラッキングのブロックや計測停止を強制する仕組みではありません。
- 実装のばらつき: サイトやサービスごとにDNTの解釈や対応が異なります。
これらの理由から、DNTだけではプライバシー保護として不十分です。
実用的な代替手段と組み合わせ
DNTを補完する、現実的で効果的な方法をいくつか挙げます。
- トラッカーブロッカー(拡張機能)を導入する: 広告や追跡スクリプトを能動的にブロックする。例: コンテンツブロッカーやプライバシー特化拡張。
- ブラウザのプライバシーモードやCookie制御を活用する: サイト毎のCookie設定やサードパーティCookieのブロック。
- プライバシー重視のブラウザを使用する: デフォルトで追跡防止機能を備えたブラウザを検討する。
- ネットワークレベルの対策: VPNやDNSベースの広告ブロックサービスを併用する(ただし運用と信頼性を評価すること)。
- サービス側でのオプトアウト: 広告ネットワークや分析サービスのオプトアウトページを利用する。
これらは単独でも効果がありますが、複数を組み合わせるとより高いプライバシー保護が期待できます。
GDPRなどの法規制とDNTの位置づけ
欧州のGDPRや各国の個人情報保護法は、個人データ処理に法的根拠を求めます。DNTは「利用者の意向」を示す手段の一つですが、法的な同意や説明責任の代わりにはなりません。事業者は法令に従い、追跡やデータ処理の法的根拠を示す必要があります。
Note: 法規制の適用範囲や要件は国や地域で異なります。具体的な法的助言が必要な場合は専門家に相談してください。
導入時の実務チェックリスト
ユーザー向け(短め):
- ブラウザのDNT設定をオンにする。各ブラウザの手順を参照。
- 信頼できるトラッカーブロッカーを1つ以上インストールする。
- サードパーティCookieをブロックする設定にする。
- 定期的に拡張やブラウザのプライバシー設定を見直す。
サイト管理者向け(短め):
- サイトが受け取ったDNTリクエストをどう扱うかポリシーを作る。
- 分析/広告ベンダーとDNT対応について確認する。
- プライバシーポリシーでトラッキングとオプトアウト手順を明示する。
よくある誤解
- 「DNTをオンにすれば全ての追跡が止まる」: これは誤りです。DNTは信号であり、強制力はありません。
- 「DNTはプライバシーの最終解決策」: いいえ。DNTは意向表示の一部に過ぎません。広い対策が必要です。
1行用語集
- トラッカー: ウェブ上でユーザーの行動を収集・追跡する仕組みやスクリプト。
- サードパーティCookie: 訪問したサイト以外のドメインが設置するCookie。
- オプトアウト: 処理や追跡を拒否する意思表示。
結論と推奨アクション
DNTは簡単に使える「意向の通知」であり、設定して損はありません。しかし、DNT単体で完全なプライバシーを達成することはできません。現実的には、DNTの有効化に加えてトラッカーブロッカー、Cookie制御、プライバシー重視のブラウザやVPNなどを組み合わせることが効果的です。
行動推奨:
- まずブラウザでDNTをオンにする。2. トラッカーブロッカーを導入する。3. サードパーティCookieを制限する。4. 必要に応じてVPNやDNSレベルのブロックを併用する。
参考と次の一歩
DNTは業界と規制の議論の中心にあり、ブラウザベンダーや規制当局は改善策を検討し続けています。最新の動向を注視しつつ、自分のプライバシーを守るために当面の対策を講じることが重要です。
まとめ
- DNTは「追跡しないでほしい」と伝える信号です。
- 多くの第三者はDNTに従う義務がないため、単独では不十分です。
- 実用的にはDNTとトラッカーブロッカー、Cookie管理を組み合わせることを推奨します。
注: Gary Kovacs(当時Mozilla CEO)によるDNTやプライバシーに関する講演やTEDトークは、仕組みと社会的議論を理解する上で参考になります。