このガイドでは、CalibreとEpubMerge/EpubSplitプラグインを使ってePub電子書籍を安全に結合(マージ)および分割(スプリット)する手順を、インストールからトラブルシューティング、ベストプラクティス、チェックリストまで含めて詳しく説明します。DRMフリーのePubが前提です。問題が起きた場合の対応法や代替ツールも紹介します。
クイックリンク
- なぜ結合や分割を行うのか
- 必要なもの
- プラグインのインストールと設定
- 電子書籍の結合手順
- 電子書籍の分割手順
- よくあるトラブルと対処法
- 付録:チェックリスト、受け入れ基準、用語集
なぜ結合や分割を行うのか
電子書籍の結合や分割を行う理由は多岐にわたります。例えば:
- 大型アンソロジーを小さな作品ごとに分割して読みやすくしたい
- 短編や詩集をひとつの大きな巻にまとめて一度に管理したい
- 既存の全集(例:ある作家の全作品)を単一ファイルとしてまとめ、読書進捗を一元管理したい
いずれの場合も、本ガイドはePubの内部構造を直接編集することなく、プラグインを使って安全に処理する手順を示します。マークアップを誤って壊すとファイルが読み込めなくなるため、手順に沿って操作してください。
必要なもの
- Calibre(無料の電子書籍管理ソフト)
- EpubMergeプラグインとEpubSplitプラグイン
- 操作対象はDRMフリーのePub形式の電子書籍(DRMが掛かっている場合は事前に解除する必要があります)
注記: Calibreの基本操作に慣れていない場合は、先にCalibreの導入とライブラリへの追加を行ってください。本稿はCalibreがインストールされ、作業対象の本がライブラリに追加されている前提で進めます。
プラグインのインストールと設定
EpubMergeとEpubSplitはCalibreのユーザープラグインとして配布されています。インストール手順の概略は次の通りです。
- Calibreのメニューから Preferences -> Get plugins to enhance calibre を開く。
- User Plugins リストで Plugin Name 列をクリックして名前順にソートすると目的のプラグインが見つけやすくなる。
- EpubMerge と EpubSplit をそれぞれ選択して Install をクリック。セキュリティ警告が出たら Yes を選ぶ。
- インストール時にツールバーやコンテキストメニューにショートカットを追加するか選べる。よく右クリックで操作するならコンテキストメニューへの追加を推奨。
- 両方のプラグインをインストールしたら Calibre を再起動する。
EpubMerge は簡単な設定画面を持っています。基本設定はデフォルトのままで問題ないことが多いです。特に「Keep Unmerge Metadata(結合時のメタデータを保持)」は、将来元に戻したい可能性があるなら有効にしておくと便利です。
重要: プラグインはユーザー提供のものであり、環境差(OS、Calibreのバージョン、ePubの作り方)によって挙動が異なる場合があります。作業する前に元ファイルのバックアップを取る習慣をつけてください。
電子書籍の結合(マージ)手順
- Calibreライブラリで結合したい全てのePubを選択する(複数選択)。
- 右クリックメニューまたはメニューバーから EpubMerge -> Merge Epubs を選ぶ。
注意: 選択したファイルにePub以外の形式やDRMのかかったePubが含まれていると処理は失敗します。失敗したファイルはダイアログで通知されます。
- マージ画面が開く。デフォルトではCalibre内の並び順が合成順になっている。緑の矢印で並べ替え、赤い X で除外ができる。好みの順番に並べ替えたら OK をクリック。
- Calibreはまず結合後のメタデータエントリを作成する。初期値はリスト中の最初の文書のメタデータを受け継ぐので、タイトルやカバー、著者名を確認して必要なら編集する。
- メタデータ確認後、実際のマージ処理が始まる。完了すると新しいePubとメタデータを持つエントリがCalibreに追加される。
- 結合後のePubを確認し、章立て(目次)や内部構造、章番号、注釈、画像が正しく保持されているかを確認する。必要に応じてメタデータやカバーを編集する。
ポイント: EpubMergeは各元ファイルの構造(巻・章)をできる限り保持します。MOBIなど別形式に変換しても構造が残る場合が多いですが、変換先のフォーマット次第で目次や注釈の扱いが変わるため変換後の確認を忘れないでください。
電子書籍の分割(スプリット)手順
分割には簡単な方法と手動で少し手間のかかる方法があります。
1) EpubMergeで結合したファイルを元に戻す(簡単な方法)
EpubMergeで結合した際に「結合メタデータを保持」オプションが有効であれば、元に戻すのは極めて簡単です。
- 結合済みのエントリを右クリックし、EpubMerge -> UnMerge Epub を選択。
- プラグインが保存してあったメタデータを元に、個別の書誌情報を復元してそれぞれ新しいエントリとして作成する。
この方法では、結合前のメタデータ(タイトル、著者、タグなど)が復元され、元の個別ePubがフォルダに抽出されます。
2) EpubSplitを使って手動で分割する(メタデータが無い場合)
結合時にメタデータが保存されていない、または別で入手した巨大なePubを分割したい場合は EpubSplit を使って手動で分割します。
- 分割したいePubを選択して EpubSplit を実行。
- ePubの内部構造(ファイル一覧、HREF、目次)を表示する画面が出る。ここで分割したい範囲を選択する。
元の結合元ファイルに一意の識別子(例えばISBNやシリアル番号)が残っていれば、HREF列の識別子でまとめて抽出可能。識別子が無い場合は目次(TOC)やページプレビューでどの部分がどの作品かを目視で確認して選択する。
選択したファイルをハイライトし、New Book(新規書籍)をクリック。Calibreに新しいエントリが作成されるが、メタデータは元のもの(または空)なので、手動で編集する必要がある。
新規に作成された書誌データを確認し、タイトル/著者/カバー/タグを入力またはCalibreのメタデータ取得機能で補完する。
抽出されたePubを開き、目次や段落分割、画像の整合性を確認する。
成功例として、目次や章立てが正しく生きたまま個別のePubが取り出せれば完了です。
よくあるトラブルと対処法
- 処理が途中で失敗する: 対象ファイルにDRMがかかっていないか、そもそもePub形式かを確認。Calibreのログに失敗理由が出る場合がある。
- 目次が乱れる: 元のePubが不規則なTOC構造を持っていると合成や分割後に目次が崩れる。目次の編集はCalibre内で可能だが、細かい調整はEPUBエディタ(例: Sigil)で行うと良い。
- 文字化けやエンコーディングの問題: 元ファイルの文字コードや特殊文字(縦書き、ルビなど)が原因。UTF-8準拠のePubであるか確認し、必要に応じて元ファイルを再生成する。
- 画像やスタイルが欠落する: マージ/スプリット後にCSSや画像パスが壊れていることがある。内部のmanifestやOPFを確認し修正する必要があるが、手動編集はリスクが高いのでバックアップを取ってから行う。
チェックリスト:作業前/作業後
作業前チェックリスト:
- 対象ファイルがePubであることを確認
- DRMが掛かっていないことを確認
- 元ファイルのバックアップを作成
- Calibreを最新に更新(プラグイン互換性のため)
作業後チェックリスト:
- 新しいePubの目次(TOC)を確認
- 章区切りや本文の順序が正しいことを確認
- 画像、表、脚注の表示を目視で確認
- 必要ならメタデータ(タイトル、著者、タグ、カバー)を修正
- 変換先フォーマット(MOBI等)でも問題が無いか確認
受け入れ基準
分割・結合作業の受け入れ基準は次の通りです。
- 目次が期待通りに表示されること
- 章順と本文の順序が正しいこと
- 主要な画像や表が欠落していないこと
- メタデータ(タイトル、著者)が適切に設定されていること
これらが満たされない場合は、作業をやり直すか、個別に問題箇所を修正してから受け入れること。
代替アプローチとツールの比較
- Sigil: ePub編集に特化したGUIツール。目次編集やHTML/CSS編集が容易。細かいレイアウト修正向け。
- Pandoc: フォーマット変換の万能ツール。Markdown等からePubを生成したり、ePubから他フォーマットへ変換する際に有用だが、GUIは無い。
- Calibre単体の変換機能: 形式変換(ePub⇄MOBI等)は強力。結合・分割はプラグインの方が簡便。
選択の指針: 目次や章立てなど構造の保持が重要ならCalibre+EpubMerge/EpubSplit。細かなHTML/CSSの修正が必要ならSigil。大規模な形式変換やバッチ処理が目的ならPandocを検討。
トラブルシューティングの簡易フローチャート
flowchart TD
A[開始: ePub を用意] --> B{DRM付き?}
B -- はい --> C[DRMを解除する(別途手順)]
B -- いいえ --> D[Calibreに追加]
D --> E{結合 or 分割}
E -- 結合 --> F[EpubMerge 実行]
E -- 分割 --> G[EpubMergeで結合済か確認]
G -- 結合済 --> H[UnMerge 実行]
G -- いいえ --> I[EpubSplit 手動選択]
F --> J[結果確認]
H --> J
I --> J
J --> K{問題あり?}
K -- はい --> L[詳細確認: TOC, HREF, manifest]
K -- いいえ --> M[完了]
役割別チェックリスト
ライブラリアン(大量の管理を行う人):
- 自動化スクリプトでバックアップを取得
- 変換後の一括検証(サンプル抽出)を実施
- メタデータ規約(タイトル表記等)を統一
一般読者(個人用途):
- 必要なファイルのみを選んで作業
- 変換後に数章を読み通して表示を確認
- 元ファイルは一定期間保管
デジタルアーカイブ担当:
- すべてのバージョンを保存(元・結合・分割)
- メタデータの完全性を記録
- 変換ログとチェックサムを保持
テストケースと受け入れ試験例
- マージ後のePubをCalibre内で開き、目次に全ての作品が順序通りに表示されるかを確認する。
- 個別作品を抽出して、新規ePubとして保存。章頭・章末の切れ目が不自然でないか確認する。
- 生成ePubを別のリーダー(PC、スマホ、専用リーダー)で開き、表示差がないか確認する。
- 変換(ePub→MOBI等)しても目次と注釈が維持されるか確認する。
合格条件は「主要な構造と本文が読める状態で損失がないこと」です。
リスクマトリクスと軽減策
- ファイル破損(高): バックアップを必ず取る。作業はコピーで行う。
- DRM関連の法的リスク(中): DRM解除には法的制約がある地域がある。自国の法律を確認する。
- 目次・CSS崩れ(中): Sigil等のエディタで修正する。自動化は慎重に。
- メタデータ喪失(低): EpubMergeの「Keep Unmerge Metadata」を有効にする、または手動で記録する。
セキュリティとプライバシー注意点
- 配布・共有する際は著作権とライセンシングに注意する。DRMを解除した書籍の配布は法的に問題になる場合がある。
- 個人のメタデータ(読み取り履歴・注釈)を他者と共有しないよう注意する。
追加のヒントとベストプラクティス
- 大量バッチ処理を行う場合、最初に2~3冊で検証してから本番を実行する。
- カバーファイルは高解像度のものを用意しておくと変換時に見栄えが良い。
- シリーズをまとめる場合は、シリーズ名や通し番号をメタデータに統一しておく。
付録:1行用語集
- ePub: 電子書籍の標準的フォーマット。HTMLとCSSで構成されたパッケージ。
- DRM: デジタル著作権管理。購入者の権利を制御する仕組み。
- Calibre: 電子書籍管理・変換ソフト。
- EpubMerge: Calibre用プラグイン。複数ePubを結合する。
- EpubSplit: Calibre用プラグイン。ePub内部のファイルを抽出して新規ePubを作る。
まとめ
- CalibreにEpubMergeとEpubSplitを追加すると、DRMフリーのePubを安全に結合・分割できる。
- 結合時はメタデータの保持オプションを有効にすると、簡単に元に戻せる利点がある。
- 分割が必要な場合は、まず自動復元(UnMerge)を試み、ダメならEpubSplitで手動抽出する。作業前のバックアップと作業後の検証を必ず行う。
ご意見や別の方法の提案、電子書籍に関するチップがあればぜひ下のコメントで共有してください。